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Sayahon
更新日2022年11月7日平均年収や失業率が物語る学歴社会レベル
今回の新型コロナウイルスによるパンデミックの影響を受けて、米国大学での学び直しを決めた私。現在フリーランスとして働く傍ら、アメリカのオンライン大学「University of the People(UoPeople)」で経営学を学んでいます。
実は、2007年のリーマン・ショックを機に起きた第二次世界恐慌の際にも、不況にも関わらず、世界中で大学入学者が増加したことをご存知ですか?
本稿では、実際に社会人大学生として、アメリカの大学に在籍している私 Sayah (@sayah_media) が、「学歴が与える影響(年収や失業率)」「大学教育に対する意識や考え方の違い」などについて、日本と海外で比較・解説していきます。
※この記事は、学歴に対して肯定または否定する意図はありません。
▼社会人の私がアメリカの大学に入学を決めた理由については、こちらをご覧ください。
ピンチの時こそ成長するチャンス
大人になってからアメリカの大学に入り、いわゆる学び直し(リカレント教育・生涯学習)や学歴のアップデートを後押しした理由の一つに、COVID-19によるパンデミックの影響があります。
一度目の緊急事態宣言中、以前の会社に属しながらリモートワークをしていた私は、アフターコロナの経済への影響を考え、ふと不安に苛まれました。
- 尊敬できる上司や優しい同僚たちの下、長年過ごしてきた居心地良い環境に依存しているのではないか
- 会社に守られているということはとても大きいが、今後『会社員=安泰』という公式は、ますます成立しなくなってくるのではないか
と考えたためです。
市場価値を高めることの重要性
市場のあらゆるニーズや機会に応え、需要のある人間になるためには、自分の価値や強みを高めて「Competitive advantage(競争優位性)」を持ち、自分自身が「Scarce resource(希少資源)」となる必要があると感じました。
そして、早速リモートワークが解除される寸前に、フリーランスとして独立し、出社時間の削減によって生まれた時間的余裕を生かして、アメリカのオンライン大学UoPeopleで経営学を学び始めました。
実は、このような考え方は世界でも以前から存在しています。
不況で高まる高等教育への需要
ユネスコ(UNESCO、国際連合教育科学文化機関)のデータを見ると、2007年の夏以降に起きた世界金融危機の中、世界中で支出が増加した項目の一つに「高等教育」があります。
この事実を見ると、不安要素が多い世の中だからこそ、安定した未来を求めて、教育や学歴の取得に投資しようと考える人が多いということが推測できます。
高等教育とは
高等教育とは、大学や大学院などで行われている教育のことです。UNESCOが策定している統計フレームワークの「ISCED(国際標準教育分類)」では、レベル5A以上の教育を指します。
ISCEDの「第3期の教育(Tertiary education)」の定義によると、短期大学士(Associate)と学士レベル(Bachelor)がレベル5A、大学院課程はレベル6に区分されます。
出典:International Standard Classification of Education | UNESCO
不況時に世界中で大学希望者が急増
では、一体UniversityやCollegeの需要は、一体どの程度伸びたのでしょうか。なんとアメリカでは約18%、中国では約33%、サウジアラビアでは約66%もの大学入学者が急増したという結果が出ています。
不況にも関わらず、多くの人が学歴の取得にお金を費やしたという事実を見ても、学歴や学位の取得が自身の収入の増加に繋がると考える国や人々が多いことは明らかです。
後ほど説明しますが、実際にアメリカ国内で、学歴レベルが少なからず賃金に影響をもたらすことは、下の図にも示されています。
出典:Principles of microeconomics, 2e | Open Stax Rice University
また、エコノミストのGreenlaw & Shapiro(2018)は、2013年5月の米国労働統計局のデータを元に、2012年のアメリカ国内の収入と失業率における教育の影響について言及し、
2012年には高水準の教育を受けていた層は失業率が低かったのに対し、教育の水準が低い層では失業率が高い結果となった
と指摘しています。
出典:Principles of microeconomics, 2e | Open Stax Rice University
世界の大学進学率ランキング
ちなみに2019年の「大学進学率の国別ランキング・推移」では、152ヶ国中1位がギリシャで142.85%、アメリカは14位で88.30%、日本は46位で64.58%となっています。
※UNESCOが定義する、ISCED2011のLEVEL5以上の高等教育機関が含まれます(日本での4大・大学院、短期大学など)。
出典:世界の大学進学率 国別ランキング・推移 | Global Note
リカレント教育(生涯学習)の必要性
「反復」「循環」といった意味を持つ、リカレント(recurrent)。
リカレント教育とは、人生100年時代に向けて、自分自身が価値ある人材となれるよう、学歴の取得に限らず、学習と仕事を生涯に渡って繰り返すことです。また、「生涯学習(Lifelong learning)」や「学び直し教育」と呼ばれることもあります。
近年、日本でも経済産業省や文部科学省を始め、政府が推進している取り組みで、「人生100年時代構想会議」などでも主要なテーマの一つとして、大々的に議論されてきました。
人生100年時代とは
「人生100年時代」とは、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏と、経済学の権威アンドリュー・スコット氏による大ベストセラー『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』で提唱された言葉です。
同著の中でスコット氏は、超高齢社会の日本を始め、世界中で長寿化が進んでいる今、80歳前後を寿命と考えた「20年学び、40年働き、20年休む(学校→仕事→老後)」という従来の考え方ではなく、今後は100歳まで生きることを前提とした人生設計をしていく必要があるということを提言しています。
つまり、学歴の取得に限らず、学校というステージを終え、社会人のステージに上がってからも学習を継続的に行うことで、スキルや知識を向上させ、社会人としての基礎力を構築することが大切となってくるというわけです。
人生100年時代を見据えた人生を設計し、個人が生涯学習に取り組み、学歴の取得やスキル、知識の向上など、自身の付加価値を高めていくことは、今後ますます必要となってくるでしょう。
時間がない方や、テキストを読むのが苦手という方は、マンガ版もオススメです(私も読みましたが、とても読みやすくまとめられていました)。
世界に見る日本の社会人大学生の少なさ
2012年のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、4年制大学入学者のうち、25歳以上の生徒の割合は、OECD各国で平均18.1%に達しています。つまり、OECD加盟国(アメリカやヨーロッパを含む34カ国の先進諸国)では、約5人に1人が25歳以上の学生だということになります。
出典:OECD Statistics
しかし、一方で、同年の日本人の25歳以上の学生比率は、なんと1.9%という大変低い数値となっています。これはOECD各国平均の約10分の1の数値です。さらに、1位であるアイスランドの32.45%と比較すると、約17分の1であることを示しています。
また、5年後の2017年度の学校基本統計では、25歳以上の社会人の割合は、通学で1.1%となっており、通信と併せても全体で6.1%です。これは同時に、ほとんどの社会人大学生は、通学ではなく通信で受講をする傾向があるということを意味しています。
日本と欧米での考え方の違い
日本とアメリカでは、キャリアや学業、学歴に対する考え方、教育に対する政府の対策に大きな違いがあるように思えます。ここでは、アメリカを始めとする海外と日本の、学歴に対する考え方や教育環境について、表や画像を用いて分かりやすく比較していきます。
①学位の重要性
長年、アメリカと日本の往復を続けてきた筆者。アメリカやヨーロッパと比べ、日本人の大学に対する考え方は大きく異なるように思えます。例えば、一般的に学歴社会と言われる日本でも「高卒?大卒?」といった質問はよく上がりますが、その後に続く質問は「どこの大学に行ったの?」が多いのではないでしょうか。
しかし、アメリカやヨーロッパの方達と話していると、「◯大卒」よりも、「◯◯の学位を持っている」「博士号を持っている」といった、学んだ内容や成し遂げた成果の方が話題に挙がる印象です。
アメリカ映画や海外ドラマで、よく登場人物が「彼女は経済学のPh.D.を持っていて、とても頭が良いんだ」「僕は心理学と会計学のdegreeを持っているんだ」など、学位の話をしているのを耳にしたことはありませんか?
近年では、もはや「学歴社会」ではなく「学校歴社会」との呼び声も高い日本。これに関してはジャーナリストの池上彰氏もこちらの記事で見解を述べています。つまり、日本では学歴というよりも「どこの大学に行ったか」が重視される傾向にあるということです。
アメリカのみならず、海外で「◯◯大学に入った」よりも、「△△の学位をとった」「◇◇を学んだ」という中身の方が重視されるのには、俗に言われている「日本の大学は入学が難しく、海外の大学は卒業が難しい」といった特性が現れているようにも感じます。
また、National Center for Education Statistics(米国教育統計センター)によると、アメリカでは、ここ数十年の間に、大学の学位を持つ労働者の供給が大幅に増加しています。 1970年にアメリカで84万人が取得した学士号は、2013年から2014年には90%以上もの人々に授与されています。
さらに、2000〜2001年と2015〜2016年度を比較すると、専門学校レベルが70%(約55万人→約94万人)、準学士号が74%(約58万人→約100万)、学士号が54%(約120万→約190万)、修士号が66%(約47万人→約79万人)、博士号が49%(約12万人→約18万人)増加しており、アメリカ国内において、高等教育に対する需要はますます拡大しています。
出典:Fast Facts: Degrees Conferred by Sex and Race | Institute of Education Sciences: National Center for Education Statistics
ハーバード大学のAlberto Alesina氏とマサチューセッツ工科大学のGeorge-Marios Angeletos氏の調査によると、一般的にヨーロッパ人は運やコネなどの要因に成功を求める傾向があるのに対し、多くのアメリカ人は「成功とは努力の賜物である」と考える傾向があるとのことです。
出典:Rittenberg, L., Tregarthen, T. (2012). Macroeconomics Principles V. 2.0.
このデータを見ると、アメリカ国内において、大人になっても学歴や学位の取得のため、復学をする人が多いというのも頷けます。
②大学在学中の経験の有利性
また、よく「日本は学歴社会、アメリカは実力社会」という声を耳にしますが、アメリカは実は「学歴社会」でありながら、同時に「学校主義」「実力主義」を兼ね揃えている国です。
まず、アメリカでは、学歴や卒業した大学のグレードによって初任給に差が出ます。もちろん中には名門私立大学を卒業した人材のみを採用する企業もありますが、逆に「名門私立大学を卒業した」という学歴だけでは受け入れない企業もいます。
さらに、アメリカでは、学歴だけではなく、課外活動やボランティア活動での実績、インターンの経験など、大学在学中の行動や態度、姿勢が面接時に考慮されることが多いからです。
私の大好きなアメリカ映画『プラダを着た悪魔』でも、主人公のアンディ(アン・ハサウェイ)が、面接時に学歴だけではなく、大学時代に校内新聞の編集長をしていたこと、ある記事で成功を収めたことをアピールしています。
アメリカの大学の豊富な称号・表彰制度や、大学時代の成績や功績がキャリアに与える影響については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
アメリカでは、入社後は実力主義で、能力がある人はグングン給料が上がっていきます。アメリカの企業は、日系企業のように新卒で新人を教育するスタンスではなく、即戦力を募集していることが多いので、指定されている「ポジション」に対してのスキルと経験を持ち合わせている必要があります。
さらに、アメリカでは日本のように「新卒で就職した会社で終身雇用」という働き方は一般的ではありません。卒業後に勤める会社に対し、「将来、理想の企業に勤めるための(または就きたいポジションに就くための)スキルや経験を積むためのステップアップ」として考えている人も多いです。
前述の映画『プラダを着た悪魔』でも、主人公のアンディはファッション誌の編集部でアシスタントをし始めましたが、アンディにとってファッション誌で働くことは最終目標ではなく、あくまでもそれは「社会派ジャーナリストになる」という夢を達成するためのキャリアステップ(キャリアパス)でした。
つまり、アメリカで就職をする際、競争相手は学校や様々な企業でスキルや経験を積んだ中途の求職者たちになります。そのようなアメリカの激しい競争社会の中で生き抜くためには、学歴は勿論、大学在学時の様々な経験や実績が大変重要になってくるわけです。
アメリカの卒業大学別の平均年収については、後ほど解説します。
③年齢に対する世間の目
また、日本では、高校を卒業してからすぐに入学し、22歳で卒業するというのが一般的で、浪人して19歳以降で大学に入学した人を除けば、20代半ば以降の大学生はあまり見かけないという印象です。
年齢に対してシビアな日本では、歳を重ねてから学歴の取得に励むことに対する世間の目や先入観、周りからの理解を突破できずに、思いとどまってしまう人も多いのではないかと思います。
アメリカの場合、多くの家庭では、18歳になったら親元を離れて自立することが求められるため、学費を自分で払っているという学生も少なくありません。
そのため、アメリカでは、一度休学して仕事に集中してお金を貯めてから、再度20代後半や30代で復学をしたり、育児が落ち着いた女性が40代50代になってから、残りの単位を取るために復学するということは、決して珍しいことではないのです。
アメリカに限らず、こういった傾向は世界中多くの国で見られます。これは海外では、それだけ学歴がキャリアに与える影響が大きいということの表れかもしれません。
④ジェンダーの壁
2020年にWorld Economic Forum(世界経済フォーラム)が発表した、男女平等に関するレポート「The Global Gender Gap Report 2020(グローバル・ジェンダーギャップレポート2020)」によると、日本は過去最低の153カ国中121位に順位を落としました(前回は149ヶ国中110位)。
出典:The global gender gap index ranking, 2020 | World Economic Forum
こちらの指数は、4つの分野(経済、政治、教育、健康)のデータを基に算出されており、0が完全不平等、1が完全平等を示しています。ちなみに日本の総合スコアは0.652です。
これはG7の中でも最下位という結果で、さらに他のG7諸国にも大きな差をつけられていることから、多くのニュースでも取り上げられました。こういった背景もあり、日本でも昨今、女性をめぐる社会的環境のあり方が問われています。
また、近年は日本でも結婚年齢が上がってきているものの、一般的には「30歳までに結婚をしたい」と考えている女性や、30歳に近づくにつれ、周りからのプレッシャーを感じ、肩身狭い思いをしているという女性も少なくないというのが実状です。
さらに、日本では、社会人や主婦になった後に復学するケースは男女問わず珍しく、特に出産後に女性が学業に戻ることは決して容易ではありません。
ビジネス特化型ソーシャルネットワーキングサービスのLinkedIn(リンクトイン)が2020年に行った「日本女性の仕事と生活に関する意識調査」では、日本社会の男女格差を解消するための取り組みに対し、53%の女性が「男女の平等な家事分担の推進」を支持し、実際に日本女性の90%以上が「家庭内の業務を主に自分が担当している」と回答しました。
また、同調査によると、仕事と家庭生活のバランスで悩んでいる女性は69%にのぼり、多くの女性が家庭に関してのサポートが足りないと感じていることが分かりました。
出典:LinkedIn「日本の女性と仕事の生活に関する意識調査」| PR TIMES
また、アメリカを始め、世界と比べて「キャリア志向の女性が少ない」と言われている日本。
それを証明するように、「将来的に幹部職まで昇進したい」とする女性は7%、「将来は自分の事業を立ち上げたい」とする女性は14%、「より大きな機会を追求するために転職したい」とする女性は12%に過ぎず、キャリア志向の女性は合計で33%にとどまりました。
実際に「上級管理職に女性がいる割合が半数超」という項目への回答は、14%という非常に少ない数字となっています。
出典:Linked In「日本の女性と仕事の生活に関する意識調査」| PR TIMES
このように、学歴社会と呼ばれる割に、女性の社会人大学生が少ない理由としては、こういった家事や育児の負担によって、学習時間や仕事復帰への時間の確保が難しいこと、また、女性が活躍できる社会環境や体制が整備されていないことで、キャリアに対する意識を高めにくいといった背景が考えられます。
たとえば、フランスでは、出産が女性のキャリアを阻む要因であるとの考えから、男女平等や父親の育児への関与、家事の分担などの社会的課題を解決すべく、2002年から「父親休暇制度」が導入されています。
さらに、2020年9月、仏マクロン大統領は、2021年7月から父親の休暇日数を28日間(現行の2倍)とし、そのうち7日間の取得を義務付けることを明らかにしました。
出典:2021年7月から出産時の父親休暇日数が現行の2倍の28日に(フランス) | JETRO
国連のSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる課題にも「ジェンダー平等と女性のエンパワーメント」が挙げられており、このような男女平等の推進や、女性が働きやすい社会づくりへの取り組みは、世界中で注目され、実施されています。
日本でも2016年4月に女性の社会進出を推進する「女性活躍推進法」が施工されているため、このような取り組みは今後も広がっていくのではないでしょうか。
⑤学費の高さと支援
Business Insider(2017)は、OECD(経済協力開発機構)のレポートを基に、日本の公立大学の年間授業料の平均が、OECD加盟国35カ国中3番目であると述べています。1位はアメリカの$8,202ドル、2位はチリの$7,654、3位は日本で$5,229です。
また、OECD加盟国のおよそ3分の1で公立の授業料が無料、内10カ国で授業料が4,000ドル以下となっています(2017年時点)。
出典:It costs more to go to college in America than anywhere else in the world | Business Insider
フランスやドイツを始め、ヨーロッパでは、公立大学の入学料や授業料が無料であることは決して珍しくありません。
残念ながら、フランスにおいては、2019年度から非EU圏の学生の学費が値上がりしており、学士課程で年間2,770€(約36万円)、修士課程・博士課程で3,770€(約48万円)かかってしまうものの、非EC圏学生に対しても政府が多くの予算を費やし、約3分の1もの負担を行っています。(1€ = 129円で換算、2021年2月時点)
また、スウェーデンでは、公立大学だけではなく私立大学も学費が不要で、ノルウェーにおいては大学への補助金が最も多く、なんと1年間のGDPの1.3%が費やされています。
出典:How Much Do Tertiary Students Pay and What Public Subsidies Do They Receive? | OECD
さらに、2017年時点で日本より授業料の高いチリも、2015年12月には貧困層の学生に対する法案が可決され、バチェレ政権は「2016年度に全学生の3割、2018年度に7割、2020年度には全員分の学費を無償化する」と公約しました。また、1位のアメリカにおいても、約47.6%が給付制奨学金を受け取っている状況です(2016年時点)。
出典:OECD加盟34ヵ国の国公立大学授業料無償化、給付制奨学金の有無と受給学生割合 | しんぶん赤旗
一方で、日本にはつい最近まで、国による給付制奨学金制度がありませんでした。これまでの奨学金は、無利息型の「第一種奨学金」と利息つきの「第二種奨学金」の「貸与型」のみで、学生は返済することが義務付けられていたのです。
2017年の参議院常任委員会調査室・特別調査室のレポートによると、OECD諸国で給付型奨学金制度が整備されていない国は、日本とアイスランドのみでした。
しかし、アイスランドでは国立大学(学生の8割以上が通っている)を始め、多くの大学で授業料を徴収していません。
同レポートによると、以前から日本の授業料の高さや、それに対する国の経済的支援のあり方については「国公立大学の授業料が高めに設定されており、国による給付制奨学金の制度が設けられていない国は、OECD諸国では日本のみだ」と指摘されており、長年問題視されていたそうです。
出典:給付型奨学金制度の創設 | 参議院
つまり、以前は個人が高い授業料を自己負担しなくてはなりませんでした。
歳を重ねると親からの支援はおろか、家庭を持たれている方も多く、支出が増えてきます。このような経済的理由も、これまでに社会人大学生への敷居が高かった理由の一つだと考えられます。
出典:OECD加盟34ヵ国の国公立大学授業料無償化、給付制奨学金の有無と受給学生割合 | しんぶん赤旗
実際に、2017年のOECDの「初等教育から高等教育に関する公的支出総額の比率」を見ても、日本は下から5位という結果になっています。
このデータを見ると、日本の公的支出総額の比率は7.8%で、OECD平均の10.8%と比べても非常に低い数値です。また、前述の通り、2017年時点で「日本よりも授業料が高い」という結果が出ていたチリに関しても、公的資金支出額に関しては1位となっており、日本の2倍以上である17.4%を記録しています。
出典:Education at a Glance (2020), Figure C4.1. | OECD
しかし、日本でも、2020年4月から新たに「高等教育の修学支援新制度」という制度がスタートしました。こちらは独立行政法人「日本学生支援機構(JASSO)」の奨学金制度で、貸与型ではなく給付型なので、返済義務がありません。
また同制度は「高等教育無償化」「大学無償化」とも呼ばれていますが、こちらは大学のみではなく、同じく高等教育機関である短期大学、高等専門学校、専門学校にも適用されます。
こちらの給付型奨学金については、下記の公式ウェブサイトから詳しく知ることができます。
▼日本学生支援機構(JASSO)の【奨学金の制度 (給付型)】公式ページはこちら。
▼文部科学省の【高等教育の修学支援新制度】公式ページはこちら。
また、こちらの新制度の確立によって、日本の公財政支出額は今後増加するのではないかと考えられています。
⑥GPAの重要性
また、アメリカでは、就職時に学歴は勿論のこと、「GPA(各科目の成績から算出された成績評価指標)」が重視されます。
欧米では、「大学は学生生活の延長」というよりも、学歴や大学での成績が今後のキャリアにつながると考える人が多く、不真面目な生徒を除き、必死に取り組んでいる学生が多く見られます。
アメリカの大学は、日本の大学よりも課題の量が膨大で、授業の進行ペースも早いため、少しでもサボるとすぐに乗り遅れてしまうというのも、勉学に熱心に取り組む学生が多い理由の一つです。
しかし、内容が難しい分、アメリカでは、学歴や優秀なGPA、様々な称号の獲得や表彰の実績は、高く評価されます。
日本でも、2008年の中央教育審議会がキッカケとなり、全国の大学でGPA制度の導入が進んでいます。文部省の調査によると、2008年度の導入率は46%、2013年度は72%という数値が出ています。
出典:大学における教育内容等の改革状況について(平成25年度)| 文部科学省
ただ、日本のGPAは、各大学が独自の方法で算出していることもあり、大学ごとのバラつきや、海外式のGPAへの換算の難しさへの懸念など、まだ仕組みが確立していないようです。
しかし、現在は日本の企業でGPAを重視されるケースは少ないものの、今後は面接時に学歴だけではなく、アメリカに追随して、GPAの提出を求められる機会が増えてくるかもしれません。
特にアメリカなど海外への留学や就職を検討している方は、GPAは常に付きまとってくるものです。そのため、気を緩めずにしっかりと勉学に取り組むと良いでしょう。
アメリカでは大卒者は年収◯◯倍!?
ここでは、実際にアメリカで、学歴が年収に与える影響について見ていきます。
Greenlaw & Shapiro(2018)によると、アメリカで修士号(Master’s degree)を持っている人の収入の中央値は、性別によって異なるものの、2つの平均は毎週$2,951(約31万円)で、52週間をかけると1年で約$153,452(約1,617万円)です(2015年時点)。
また、学士号(Bachelor’s degree)以下の25歳以上のフルタイムワーカーの年収の中央値は$63,648(約671万円)で、高卒以下の男女の年収の中央値は$34,528(約364万円)という結果が出ています。(2021年2月時点、$1 = ¥105で換算)
出典:Principles of microeconomics, 2e | Open Stax Rice University
さらに、米国労働統計局(Bureau of Labor Statistics、BLS)のデータによると、学歴が高卒止まりのアメリカ人よりも、学士号を持っているアメリカ人の方が、給与が54%も増加しています。
また、修士号を取得しているアメリカ人は、なんと高卒のアメリカ人のほぼ2倍の給与を得ることができるとのことです。
出典:U.S. Bureau of Labor Statistics, May 22, 2013
また、アメリカ人の学歴に関して、同局のデータによると、2014年時点、アメリカ人のほぼ88%が高卒資格を持っているのに対し、25〜65歳で学士号を持っているアメリカ人は33.6%、25〜65歳で修士号を持っているアメリカ人は、7.4%程度だということが明らかになっています。
出典:U.S. Bureau of Labor Statistics, May 22, 2013
日本の学歴別の平均年収
一方で、2019年度の日本の平均賃金を学歴別に見ると、下記のようなデータが出ています。
男性 | 女性 | |
大学・大学院卒 | 約400万円 | 約296万円 |
高専・短大卒 | 約315万円 | 約261万円 |
高卒 | 約293万円 | 約215万円 |
男性の「高卒」と「大学・大学院卒」での年収差は約107万円、女性の「高卒」と「大学・大学院卒」の年収差は約81万円となっています。つまり、「高卒」と「大学・大学院」間において、男性の場合は月平均で約9万円、女性の場合、月平均で約7万円の差があることに。
また、これを見ると、学歴だけではなく男女間でも大きな収入差があることが分かります。
アメリカの学歴別の賃金
アメリカの学歴別の収入について、米国労働統計局の同年のデータで比較してみます。2019年のアメリカの「学歴別の収入の中間値」は、下記の通りです。
Doctoral degree(博士号) | $97,916(約1032万円) |
Professional degree(専門職学位) | $96,772(約1020万円) |
Master’s degree(修士号) | $77,844(約821万円) |
Bachelor’s degree(学士号) | $64,896(約684万円) |
Associate degree(準学士号) | $46,124(約486万円) |
Some college(単科大学), No degree(学位なし) | $43,316(約457万円) |
High school diploma(高卒) | $38,792(約409万円) |
Less than a high school diploma(高卒未満) | $30,784(約324万円) |
ピンク:大学院レベル、青:4大レベル、緑:短大レベル
超学歴社会のアメリカでは、High school diploma(高卒)とMaster’s degree(修士号)で$39,052(約412万円)の差、Doctoral degreeともなると$59,124(約623万円)もの差があります。これは実に高卒の約2.5倍という数値です。(2021年2月時点、$1 = ¥105で換算)
出典:Learn more, earn more: Education leads to higher wages, lower unemployment | U.S. Bureau of Labor Statistics
日本の高卒者と大卒者の収入差より、はるかに差が大きいことから、アメリカがいかに学歴社会・学位社会であるのかが伺えます。
アメリカの差別に対する政策
また、2007年の労働省(Department of Labor)の調査によると、アメリカ国内では、同様の学歴や職歴、職業を持つ男女の賃金格差はわずか5%であることが分かりました。
これにはアメリカで制定されている、年齢や性別、肌の色、宗教、出身国などに対する差別を廃止するための法律が、強く関係していると思われます。
年代 | 法令名(英語) | 法令名(日本語) | 概要 |
1963年 | Equal Pay Act | 平等賃金法 | 雇用主に対し、平等な仕事をする男女に同じ賃金を支払う義務を課す法律 |
1964年 | The Civil Rights Act of 1964 | 1964年公民権法 | 人種、肌の色、宗教、性別、出身国に基づく雇用差別を禁じる法律 |
1967年 | The Age Discrimination in Employment Act | 雇用者年齢差別禁止法 | 40歳以上の個人に対する年齢差別を禁じる法律 |
1991年 | The Civil Rights Act of 1991 | 1991年公民権法 | 意図的に雇用差別をした雇用主に対し、金銭的損害賠償を求める法律 |
また、アメリカでは、連邦雇用機会均等委員会(The federal Equal Employment Opportunity Commission (EEOC) )による「積極的格差是正措置(Affirmative action)」という取り組みも実施されています。
同措置は、マイノリティの雇用や昇進に特別な権利を与える、アメリカ政府・企業による積極的な取り組みで、差別訴訟に敗れた連邦請負業者のみ、アメリカ政府によってこちらのポリシーが適用されています。
出典:Principles of microeconomics, 2e | Open Stax Rice University
一方、日本でも1986年に女性の雇用を促進させるための「男女雇用機会均等法」が施行され、1999年には「改正均等法」が施行されました。しかし、東洋学園大学 現代経営学部 現代経営学科 教授の横山和子氏は、
日本は職場での女性活用という面では,米国に比べては20年, 他の先進諸国と比較しても相当程度遅れているとの指摘を受けている。
出典:日本および欧米における男女の雇用均等 | 東洋学園大学 公式サイト
と、現状について指摘しています。
アメリカの大学別 最高賃金
また、卒業後に最も良い給料を貰うことのできるアメリカの大学は、下の表の通りです。こちらのデータでは、入社1年〜5年目の若手社員の賃金の中央値と、入社10年以上の中堅社員の賃金の中央値がまとめられています。
順位 | 学校名 (英語表記) | 学校名 (日本語表記) | 若手社員の賃金中央値 (入社1年〜5年目) | 中堅社員の賃金中央値 (入社10年以上) |
1位 | Harvey Mudd College | ハーベイマッド大学 | $91,400 | $162,500 |
2位 | Massachusetts Institute of Technology | マサチューセッツ工科大学 | $88,300 | $158,100 |
3位 | United States Naval Academy | 米国アナポリス海軍兵学校 | $79,600 | $152,600 |
4位 | Princeton University | プリンストン大学 | $77,300 | $150,500 |
5位 | California Institute of Technology | カリフォルニア工科大学 | $87,600 | $150,300 |
6位 | Harvard University | ハーバード大学 | $76,400 | $147,700 |
7位 | Stanford University | スタンフォード大学 | $81,800 | $147,100 |
8位 | Santa Clara University | サンタクララ大学 | $71,100 | $146,300 |
9位 | United States Military Academy | 米国陸軍士官学校 | $81,100 | $146,300 |
10位 | Babson College | バブソン大学 | $73,000 | $146,200 |
出典:Best Universities and Colleges | Payscale
この結果を見て、中には予想と違ったと思われる方もいるのではないでしょうか。個人的には、ハーバード大学が6位であるというのは少し意外でした。
ちなみに、上位5位中4校が工業・技術大学となっています(4位のプリンストン大学のみリベラルアーツ)。
失業率が物語るアメリカの学歴社会
また、米国労働統計局(The Bureau of Labor Statistics、BLS)がまとめた、2019年のアメリカの失業率に関するデータを見てみると、アメリカの失業率と学歴の関係性が浮き彫りになっています。
出典:Current Population Survey | U.S. Bureau of Labor Statistics
上の図を見てみると、失業率(左)も週の収入(右)も、学歴のレベルと順位が見事に一致しているのが分かると思います。このデータを見ても、アメリカではいかに学歴が就職に影響を与えるかが分かります。
学歴社会から「学習歴」社会へ
結果的に、アメリカの大学に入学することを選択した私ですが、学歴社会・主義を肯定しているというわけではありません。個人的には学歴や肩書きよりも、経験やモチベーションの高さ、勤勉さ、人柄など、中身が大事だと思っています。
ただ一方で、最終学歴が「高卒」であることによって、まずそれらを見てもらえる段階にすら立てない、自分自身をアピールする機会すら与えてもらえないことがあったりと、学歴フィルターによって、機会や選択肢、可能性が狭まり、大変悔しい思いもたくさんしてきました。
国内でも、まだまだ学歴フィルターが色濃く残っている企業もあるというのが現状です。
そういった理由から、長年学歴コンプレックスがあったことも事実ですが、アメリカの大学UoPeopleで学ぶことを決意した上で一番強かったのは、学歴の取得以上に「もっと学びたい」「もっと知識を蓄えたい」「もっと成長したい」という思いでした。
一方で、アメリカでは「学歴社会」とはいえ、学歴を「単なる肩書き」と認識しているのではなく、アメリカの大学の学習内容や卒業が難しいこともあり、学歴やGPAによって見える化することによって、その人の学習への努力やモチベーションを評価しているようにも思えます。
そのように、学歴とは、「知識」や「意欲」「勤勉さ」に関する可視化が難しい中で、その人が過去に費やした努力や時間を示す指標の一つでもあると思うのです。
学歴に関しては「学歴関係ない」「学歴は大事」など、賛否両論あると思いますが、私は学歴社会について否定するつもりも肯定するつもりもありません。しかし、しいて言うならば、筆者は学歴主義ではなく、学習歴主義です。
例えば、アメリカの大手IT企業「Google社」では、大卒者の数が社員の半数程度であるというのは非常に有名な話です。
実際に、同社が社員の学歴と社内でのパフォーマンスの相関関係を調べたところ、中途採用において、卒業した大学名や大学での成績などの学歴は、仕事のパフォーマンスにはほぼ関係ないという結果が出ました。
このようなデータもあることから、「学歴」よりも「学習歴」を重視する国や企業は、今後ますます増えていくのではないでしょうか。
最後に
年収や安定を重んじて高学歴を目指すのか。学歴ではなく自分自身のスキルや市場価値の向上にフォーカスするのか。きっと共通の正解はありません。そのため、常に自分のキャリアビジョンに合った選択をしていくことが大切だと思います。
私自身も今後、社会人大学生活を継続する上で、ただ「大卒」という学歴の取得を目標にするのではなく、学習の内容や知識の習得、仕事への適用など、あくまでも中身を大切に「学び」を続けていきたいと思います。
また、学歴の有無に関わらず、皆さんの学習量や努力が、より評価されますように。
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日本語、英語、スペイン語、フランス語のマルチリンガル。2006年から海外との往復を繰り返す。Webメディア運営会社に約5年勤めたのち、フリーランスとして独立。【経済・ビジネスライター】【SEOディレクター】【コピーライター】【オンラインPR】【AI prompt engineer】として働く傍ら、アメリカの大学「University of the People」でBusiness Administration(経営学)を履修中。執筆メディア:『ダイヤモンド・オンライン』『SPEEDA』『ELLEgirl』など。Yahoo!ニューストピックス、NewsPicks掲載経験あり。 グローバルに学び、働き、旅したい人に知って得する有益な情報をお届けします。