ヒスパニックの言語は英語?スペイン語?
近年、スペイン語の映画や音楽が世界中で人気を博しています。
また、アメリカではヒスパニック系アメリカ人がカリフォルニア州の人口を上回るなど、ヒスパニック人口は急激に増加し続けており、その勢いはとどまることを知りません。
本国スペインを超えるスペイン語話者数を誇るアメリカは、2050年までにスペイン語人口が世界1になるとされており、ヒスパニック市場は世界的に高い注目を集めています。
バイリンガル(2言語話者)も多いことから、将来が期待されているヒスパニックですが、彼らは普段どれくらいの頻度で英語やスペイン語を使用し、どの程度のレベルで英語やスペイン語が話せるのでしょうか?
本記事では、ヒスパニックの言語レベルについて分かりやすく解説します。
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ヒスパニックの定義
まず、ヒスパニックの言語について解説する前に、ヒスパニックの定義を理解しておく必要があります。ヒスパニックの意味について、Merriam-Websterでは、
1: ラテンアメリカ系の人々(特に米国に住むキューバ、メキシコ、プエルトリコ出身者)および関連する人々
2: スペインの人々や言語、文化に関連する人々
と定義しています。
日本の辞書では、
- スペイン語を母語とするアメリカ居住者
- 中南米からの移民とその祖先を持つスペイン語系アメリカ人
- アメリカに居住している、スペイン語を母語とするラテンアメリカ系の移民とその子孫
などと定義されることも多いです。
ラティーノ(ラテン系)との違い
ラティーノ(ラテン系)に含まれる人々の多くをカバーしているため、ラティーノと混同されることも多いですが、厳密にはそれぞれ定義は異なります。
「ラティーノ」がラテンアメリカ出身者やその子孫など、地域によって定義される一方で、「ヒスパニック」はスペイン語やスペイン文化にルーツを持つ人たちを表すのがポイントです。
つまり、ヒスパニックにはスペイン系フィリピン人なども含まれるのに対し、ラテンアメリカに位置しているブラジル(ポルトガル語圏)は、スペイン語圏ではないためヒスパニックには含まれません。
ヒスパニックの細かい定義については、こちらの記事で詳しく解説しているため、よかったらご覧ください。
また、「ヒスパニック系=スペイン語話者」や「ヒスパニック系=英語とスペイン語のバイリンガル」という公式は当てはまらないことにも留意する必要があります。
ヒスパニック系アメリカ人は、
- スペイン語しか話せない人
- 英語しか話さない人
- 英語とスペイン語のバイリンガル
- 2言語とも一応話せるがどちらかが苦手な人
など多種多様です。今日のアメリカには移民2世や3世も多く、スペイン語が話せないヒスパニックも増えてきています。
つまり、ヒスパニックの定義には「スペイン語のルーツ」が含まれる一方で、本人の使用言語や言語能力は関係ありません。
言語が1つしか話せないヒスパニックの割合
それでは、ヒスパニック系の人々は英語とスペイン語のどちらが得意なのでしょうか。
ここでは、いくつかのデータをもとに、ヒスパニックの英語レベルやスペイン語レベルについて見ていきましょう。
英語ができないヒスパニックの割合
2015年に米商務省 国勢調査局(U.S. Census Bureau)は、5歳以上のアメリカ居住者の英語力に関するデータを公開しています。こちらはスペイン語話者に限らず、380の言語グループを対象にした推計です。
こちらの推計によると、5歳以上のアメリカ居住者(約2億9,100万人)のうち8.6%(約2,500万人)が英語を上手に話せないことが明らかになっています。
また、5歳以上のアメリカ居住者のうち、家庭でスペイン語を使っているグループは全体の12.9%(約3,750万人)で、そのうちの43.6%(約1,630万人)が英語をあまり上手に話せないと回答しています。
つまり、家庭でスペイン語を話しているヒスパニック系アメリカ人の約半数が、英語への苦手意識を持っている傾向があるようです。
スペイン語ができないヒスパニックの割合
それでは、一体スペイン語ができないヒスパニックの割合は、全体のどの程度を占めているのでしょうか。
以下は、Statistaが公開している「米国のヒスパニック系における英語能力の分布(2019)」です。
Source: Distribution of English language proficiency among Hispanics in the United States as of 2019 | Statista
こちらのデータでも、ヒスパニックの42.35%が「英語はとても上手である」と答えているのに対し、ヒスパニックの約6人に1人が「英語はあまり上手くない」「英語は全然できない」のいずれかを選択しています。
一方で、「英語しか話さない」と回答したヒスパニックの割合も28.88%とあるように、近年では北アメリカで生活するうえで第二言語として英語を習得する人や、英語しか話さない移民3世も増えつつあるのが実情です。
2016年11月にJETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)が公開したレポートによると、現在のミレニアル世代には移民2世や3世が多いことが明らかになっています。
【世代別】ヒスパニックの言語レベル
前述の通り、一口にヒスパニックと言っても、何世代であるかによってもその特徴は異なります。
ここからは、1,220人のヒスパニック系アメリカ人の成人男女を対象に、米・ピュー研究所が行ったアンケートをもとに、6つの回答結果を見ていきましょう。
世代別の各言語(英語とスペイン語)の使用頻度やそれぞれの得意・不得意は以下の通りです。
①第一言語は英語?スペイン語?
Source: When Labels Don’t Fit: Hispanics and Their Views of Identity | Pew Research Center
【ヒスパニック全世代】
- スペイン語の方が得意:38%
- 英語の方が得意:24%
- どちらも得意:38%
【ヒスパニック1世】
- スペイン語の方が得意:61%
- 英語の方が得意:6%
- どちらも得意:33%
【ヒスパニック2世】
- スペイン語の方が得意:8%
- 英語の方が得意:40%
- どちらも得意:53%
【ヒスパニック3世】
- スペイン語の方が得意:1%
- 英語の方が得意:69%
- どちらも得意:29%
②ヒスパニックの英語レベル
Source: When Labels Don’t Fit: Hispanics and Their Views of Identity | Pew Research Center
【ヒスパニック全世代】
- 「英語のスピーキングは得意」:61%
- 「英語のリーディングは得意」:60%
【ヒスパニック1世】
- 「英語のスピーキングは得意」:38%
- 「英語のリーディングは得意」:37%
【ヒスパニック2世】
- 「英語のスピーキングは得意」:92%
- 「英語のリーディングは得意」:91%
【ヒスパニック3世】
- 「英語のスピーキングは得意」:96%
- 「英語のリーディングは得意」:94%
③ヒスパニックのスペイン語レベル
Source: When Labels Don’t Fit: Hispanics and Their Views of Identity | Pew Research Center
【ヒスパニック全世代】
- 「スペイン語のスピーキングは得意」:82%
- 「スペイン語リーディングは得意」:78%
【ヒスパニック1世】
- 「スペイン語のスピーキングは得意」:91%
- 「スペイン語リーディングは得意」:91%
【ヒスパニック2世】
- 「スペイン語のスピーキングは得意」:82%
- 「スペイン語リーディングは得意」:71%
【ヒスパニック3世】
- 「スペイン語のスピーキングは得意」:47%
- 「スペイン語リーディングは得意」:41%
④ヒスパニックが音楽を聴く時の言語
Source: When Labels Don’t Fit: Hispanics and Their Views of Identity | Pew Research Center
【ヒスパニック全世代】
- スペイン語の曲を聴くことが多い:35%
- 英語の曲を聴くことが多い:36%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:27%
【ヒスパニック1世】
- スペイン語の曲を聴くことが多い:49%
- 英語の曲を聴くことが多い:18%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:31%
【ヒスパニック2世】
- スペイン語の曲を聴くことが多い:18%
- 英語の曲を聴くことが多い:54%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:26%
【ヒスパニック3世】
- スペイン語の曲を聴くことが多い:10%
- 英語の曲を聴くことが多い:74%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:16%
⑥ヒスパニックがTVを観る時の言語
Source: When Labels Don’t Fit: Hispanics and Their Views of Identity | Pew Research Center
【ヒスパニック全世代】
- スペイン語で観ることが多い:28%
- 英語で観ることが多い:45%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:26%
【ヒスパニック1世】
- スペイン語で観ることが多い:40%
- 英語で観ることが多い:25%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:34%
【ヒスパニック2世】
- スペイン語で観ることが多い:12%
- 英語で観ることが多い:69%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:17%
【ヒスパニック3世】
- スペイン語で観ることが多い:5%
- 英語で観ることが多い:83%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:11%
⑥ヒスパニックが考えごとをする時の言語
Source: When Labels Don’t Fit: Hispanics and Their Views of Identity | Pew Research Center
【ヒスパニック全世代】
- スペイン語で考えることが多い:45%
- 英語で考えることが多い:37%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:16%
【ヒスパニック1世】
- スペイン語で考えることが多い:65%
- 英語で考えることが多い:15%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:18%
【ヒスパニック2世】
- スペイン語で考えることが多い:18%
- 英語で考えることが多い:63%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:18%
【ヒスパニック3世】
- スペイン語で考えることが多い:13%
- 英語で考えることが多い:80%
- 英語とスペイン語を半々ずつ:7%
世代によって言語のレベルは異なる
このように、同じヒスパニックでも世代によって、英語やスペイン語の得意・不得意に差があることが分かりました。
同調査では、全体の38%が「スペイン語の方が得意」、38%が「バイリンガル」、24%が「英語の方が得意」と回答しています。
また、アメリカ生まれのヒスパニックのみを対象とした質問では、半数の51%が「英語が得意」と回答しているなど、英語やスペイン語の得意・不得意はアメリカで生まれたか否かによっても異なるようです。
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他言語の習得が求められる時代へ
今回ご紹介したピュー研究所の調査では、ヒスパニックの87%が「ヒスパニック移民がアメリカで成功するためには英語の習得が必要である」と答えている一方で、全体の95%が「次世代のヒスパニックがスペイン語を絶やさず使い続けることが大事である」と考えていることが明らかになっています。
世界中でグローバル化が進展するにあたって、英語が就職や年収に与えるインパクトはもちろんのこと、超学歴社会との呼び声高いアメリカにおいて、2言語以上話せる人材が当たり前に求められる時代もそう遠くないかもしれません。
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